千慮の愚者@紋章の人

全く使ってなかった厨二ページをLARP小説投げ箱に再利用。黒歴史?何それおいしいの?なので刺さる人には痛い遺物があるので要注意〜

和風チュートリアルLARPリプレイ小説

 

    
       f:id:austella05:20190403203947j:image  

 
 
※以下の注意をよくお読み下さい

 

・うろ覚えのため台詞や行動が正確ではない(アレンジ)

 

・なんちゃって土佐弁。舞台となるアズマは本物の日本ではありませんよ!

 

・ストーリー展開以外の細かい時系列の入れ替え

 

・犬蔵の独断と偏見によるフレーバーとしてのキャラ解釈&拡大表記

 

等が混じっていますワンぜよ

 

 

 

  ーーーーそれでは、開幕ーーーー

 

 

 

 
[───それはどこかにあったかもしれない異世界の、とある物語──]

 

 

 

──今日は酒を呑むにゃぁえい日ぜよ。

まあんまるのお月さんがよう見えゆう。虫の音も心地がえいし…。…のう龍馬ぁ。

「そうじゃのう…おや、こんばんは?」

……ん?なんじゃおまん、何か用がか?

「犬蔵さん、どうやらこの人はわしらの冒険の話を聞きたがっちゅうらしいぜよ」

冒険話じゃと?あほくさ、こない訛りのきつい、しかもガオシャの吟遊詩人がどこにおるかや。からかいたいだけなら他をあたりぃ。

 

「まあそう言わずに。悪い人じゃなさそうじゃき」

……龍馬がそこまで言うなら仕方がなか。

今日は気分もえいきに、特別に酒の肴にでも語っちゅうか。但し報酬はたんまり弾んで──いや、奢りの酒で勘弁しちゃる。

「あんまり飲み過ぎないようにの」

 わかっちょるよ…。…何、わしらぁは兄妹かて?勘違いすな、ただの幼なじみじゃ。

 

 

  一杯目   冒険者たちと霧の森

 

 

……そうじゃにゃあ…わしは頭が悪いき、気の利いた言い回しはできんが、どれ、始まりの冒険の話でもするかい。

 あれは…こじゃんと咲いた梅の花の香が空に籠もるような、煮え切らんある春の日じゃった。

郷から出たばかりのわしらは金に困るといけん思うて、近くの町で依頼を受けた。

 その依頼っちゅうのが、

“森の奥深くに住む高名な陰陽師・セイメイさまから巻物を譲り受けて来い”

との話じゃったが、これがまた厄介でなあ?

 

 とにかくわしらは他に四人の仲間を募って、早速そのセイメイとかいうのの住む森に足を踏み入れた──ろくな下調べもせずにじゃ。

 初心者用の依頼とは言えあれはまずった。森は広いわ、途中で濃い霧も出始めるわ、迷うのは当然のこと……いや、目的の場所にはたどり着いたから、迷ってはいなかったんかな?

 しかし同じところをぐるぐる回っているようなあの心地は、気味が悪かったのう…

『なー、まだ着かないのか?』

『道は合ってるはず…なんだが』

『なんだか同じところをぐるぐる回っているだけのような気がするアルヨ〜』

 っちゅう具合にのう。

 

 で、そんなこんなでわしら六人衆がああだこうだ言いながら、めとろな霧の中を進むこと半刻ばかし。険しい坂を抜けた時のことじゃ。

 道の先が開けていた。そこには一本続く道と、たった一つだけ看板が立っていたんじゃ。近寄ると何やら文字が書いてある……。

「でも犬蔵さんは文字が読めんきに、代わりに読んでもろたんじゃよね」

 へいへい、無学で悪う御座いましたね。ほんで、その看板が記すには『セイメイに会いたくば、三つの試練を乗り越え“よみとつた”と“ひとくびき”を持参せよ』とのこと。勿論わしには何のことだかさっぱりじゃった。

 

 しかし、ここで我らが薬草師、ウー・ダンダン氏の出番じゃ。

わしらと一緒になった輩は揃いも揃って個性派集いじゃったが、まずは彼のことを紹介するべきじゃろう。

 あんさんは大陸の果ての方から来た獣人らしい。長い耳とつぶらな瞳…兎の獣人ナキ族ちや。一緒にいた妖術師の……

「ツムギさんぜよ」

そうじゃ、ツムギ女史と灰色の毛並みがお揃いじゃったのう。

 奴は薬草のことについてはめっぽう強くて、それと両腕に装備しちょった丸い盾、シールドトンファーとかいうあの武器も随分と達者じゃった。共にいるツムギを守るためじゃとか言ってたかのう。

 ツムギの方も、よう洗練されたような、繊細で鮮やかな妖術がげに綺麗じゃった。博学じゃしの。看板の字を読めたのも彼女じゃったんと違うか。まあ専ら刃輪──チャクラムだったか、のけったいな武器しか使っちょらんかったがな。

 

 ほんで奴が言うには、“よみとつた”は死者の近くに生える蔦で、“ひとくびき”は水辺に咲く赤い花らしかった。

 そげなもん腐るほどあるじゃろと思うたが、どうやらそうでもないらしい。まずそれを探すところから始めにゃあならんと分かって、その時初めて仲間全員の考えが一致した──この依頼は一筋縄じゃあいかん──とな。

 

 

  二杯目   陰陽師の試練と疑心

 

 

 霧はますます濃くなってきおうた。じゃが、どうも道に沿って薄いような気がして、わしは勘づいた。こん霧は森の奥に住むセイメイの野郎がかけゆう妖術なんじゃなかろうか、とな。これじゃから妖術の学者やら研究者やらの考えちゅうことは分からんちや。

 全部が全部奴の立てた筋書きなんは気に食わんかったが、奴を一度張っ倒すにはまずその顔を拝まにゃあならん思うて、わしらは渋々進むことにした。

「そう思ってたのは犬蔵さんだけや思うんけんどなあ…」

 あやかしい。

 

 ほんでそこからそう歩かないところにまた開いた場所があって、真ん中にまた看板が立っちゅう。そこには古いもんじゃが僅かに血の匂いがしたんで、嫌な予感がした……。

「え、犬蔵さんそこまで気づいてたん?」

 今思えばっちゅう話じゃ。わしは周りを警戒しながら先の仲間が看板を詠む声を聞いていた…

『この場所で行う[力の試練]に打ち勝て』

…そしてそれが終わったと同時に、いきなり三体の白い鬼が霧の中から襲いかかってきた!わしらはまんまと囲まれ、戦うほかぁなかった。

 

『──ヒャッハー獲物だあー!!!』

 そんな嬉々とした声を挙げてぼっこに鬼に斬りかかっていったのは戦士の赤(セキ)ちゅう女じゃった。流石のわしもそれには唖然としたが……戦士ちゅうのは皆んなあないな奴ばかりなんか?

 セキはわしらと同じ狼犬獣人のガオシャ族で、血のような赤毛の耳が印象的じゃった。敵に向かっていく時のまあにっこにこした晴れやかな笑顔ときたら!盾で押し切り、刀で一刀両断する…惚れ惚れするよな狂戦士っぷりじゃったな!

 

 そんなセキの様子を見てわしらも鬼に立ち向かった。ある者は斧で、ある者は盾拐で、またある者は刃輪で。ツムギ女史ときたら大人しそうに見えてその実、呪文を紡ぐよりも早く車輪大のチャクラムを振ん回して鋭く投げつけるもんじゃから、思わず喉がひくと鳴ったね。

 わしと龍馬は刀を振るが、龍馬はどこから仕入れてくるのか、手裏剣まで忍ばせちょる。頼りになる巫覡さまじゃあ…。

 

「……ツクヨミ?ああ、ちゃうんじゃ。わしの家はアマテラス様を祀っとるんじゃが、どうにも肩身が狭くてのう。…なんちゃあない。祈祷術で犬蔵さんの戦傷を癒すことができるき、有難いことじゃ」

 かすり傷程度でおっこうなんじゃ。まあえい、いつもお世話になっちゅうのは事実じゃ。

 ほんで、龍馬が正面で敵を引きつけている間にわしはすっと背後に回って闇討ち!えいアシストじゃったの、龍馬。

「ん?うん……んー……。……まあ、そういうことでえいか……」

 えいもなにもそういうことじゃろうが。

 とまあ、わしらの活躍もあって見事鬼をやっつけた。瞬きをする間にその骸が煙のように消えてしもうたのが残念じゃ。それもどうせその陰陽師センセイの召喚した式鬼かなんかじゃろうて。

 

 ほんで、敵もいなくなったから改めて辺りを見まわすとな、古い大木の根元に屍がごろりと転がっちょった。返事もないただの屍じゃが、その木に巻きつく蔦を見てダンダン氏がひとつ。

『これが例の“よみとつた”のようでアルヨ』

 わしらは哀れな屍に手を合わせてから、それを貰うてやっと一つ目の課題を達成したっちゅうわけじゃ。

 

 

 三杯目  永劫の霧に朱き華は咲く

 

 

 しっかし、おまんも聞いててよう飽きないもんじゃな。……ふふん、そりゃあよかった。わしも話すのが楽しくなってきゆうがや。あいわかった、続きを話すとしよか。

 

 わしらは少しでも霧の薄い方にと進んでいった。するとまた看板がある。

『迷いの試練──皆で心を合わせ霧から抜け出せ』

 すると突然あらがいようのない眩暈が襲ってきて、気がついたら──怪しげな魔法陣の上に立っていたんじゃ。

 

 わしらは一瞬何が起きたのか分からなかった。じゃがこれが迷いの試練だとすると、一筋縄ではいかんのは承知の上。

 霧は遂に白い壁のように四方に立ちはだかり、地面の魔方陣の模様に合わせて五つの切れ目があるばかり。 

兎にも角にも立ち止まっちゃあどうにもならんと、わしらは全員で一つの切れ目に入っていった。

 じゃが駄目だった。真っ直ぐ進んで行ったはずが、そう歩かんうちに元の魔法陣の上に戻ってきてしもうた。

『どうするアルか〜?私たち何か見逃してたりは無いアルよね?』

『うーーむ………』

 と悩んでおった時じゃ。

 

『──何か、どこかに抜けられる道は絶対にあるはずだよ。皆はここで見ていてくれ。私とセキが虱潰しに入って行って、戻って来なかった方がきっと正解だ』

 そう提案したのが、六人衆の姉御さまだった紫陽花殿だった。いつも名前よろしく華やかなおべべで明るく振舞っているが、いざっちゅう時に華奢な図体でごつい斧を振り回す姿は圧巻じゃったな。

 あの身体のどこにそんな力があるのかと問うたら、『若人や、酒は全ての原動力(ガソリン)なのだよ!!』だなんて言って、かんらかんらと笑っておうた。

 

『それじゃよろしくー!』

『お、おん…』

 紫陽花とセキがそれぞれ別れて霧の間に入っていく時に、なんだか先より進むほうの霧が濃くなっていたように見えたのは、気のせいじゃないとは思う。

 しかし少しばかり待った後、案の定同じ道から人影が現れて……

『シャオラ!かかってこいや…ぁ…?……あれ?』

『セキはんに紫陽花はん、お帰りなさんませ』

 紫陽花の妙案虚しく、道を見つけることは叶わんかった。わしらは先に進めんどころか帰れるかも怪しいことに不安になって、話し合って皆で帰ろう、ということになった。

『来た道ならこっちアルよ。足跡がこっちから来てるアル』

『でかしたウー・ダンダン!』

 

 残った一つの道に勇み足で進んだ時じゃ。わしは、いや皆んなも感じておったかな、どうやら今までの妙な気配が和らいで元に戻っていくような心地がした。

 やっと帰れる……そう思うたのに、何故かそこは来たのとは別の道だったんじゃ……。

『……あれ?もしかして先に進んだアルか?』

 

 

 なしてそれで抜けられたんかは今でも分からんが…どうせろくでもない仕組みにかぁらん。まあ?あのセイメイせんせえのことですから?《仲間全員で心を通わせ、真実の道だと確信したその先が正解だ!》だなんていうよな大層ご立派なものなんでしょうねえ。

「言うねえ、犬蔵さん…一応あの人偉いお方じゃからね?忘れんでね?まあ、あこはわしもよう分からんかったき、気持ちはわからんでもないが…。」

 龍馬はげにお人好しじゃのお。……話を戻すぞ。

 

『んーーー…。まあいい!何にせよこれで依頼の達成に一歩近づいたんだ、素直に喜ぼうじゃあないか!』

 ちゅう紫陽花の掛け声を期に、わしらは残った課題の“ひとくびき”を手に入れるべく霧の中を歩き始めた。

 わしは元々鼻と耳がえいき、それを頼りに近くの水場へは難なく辿り着けた。草の中にひっそり隠れた泉のほとりに、確かに赤い花が咲いちょった。えい香のする不思議な華でな。

 そういやひさに見ないが、あの森にしか咲かないじゃか?…勿体ない、おまんも今度探してみるとえい。無事に帰れる保証はないがの……にゃははは!

 

 

  四杯目   正眼の試練と白装束

 

 

「最後の試練もややこしかったにゃあ、犬蔵さん。もうあない経験はしとうないの。」

 ──っ、あったり前じゃ!あれがそう何べんもあってたまるかい!!づつないのえずいの、まっこと趣味の悪い妖術ぜよ、あん正眼の試練ちゅうのは!

 

 …せや、三つめの看板に書いちょった正眼の試練。何が『己の知識と絆を信じ、試練を乗り越えよ』じゃ!目を開けたら敵しか見えん、しかもこじゃんとおるんじゃぞ!?

 心臓潰れるかと思うたわ…ほんに……龍馬はいないし…けんど匂いは近いし……わしは、わしは龍馬が鬼に、く、喰われて、しもうたのかとぉ……

「ちょ、泣かんといて犬蔵さん!?わしはちゃんとここにおるし、喰われてなんかないじゃろ?」

 だっでえぇぇ…

「もう悪いんは全部陰陽師先生でえいから!のう、泣き止んでや犬蔵さん」

 ほうじゃほうじゃ!全部あいつが悪いんじゃ!

 

 ……でな、周りには白装束の鬼ばかりで、わしは動くに動けなくて…そのうちの一体が、唸りながらわしに切りかかってきた!抜刀しようと手をかけた時、その鬼から濃い龍馬のにおいがして……わしは、どういても斬りかかる気になれず、腰を抜かしてへたり込んだ……

 …すると、じゃ。その鬼は振りかざした武器をぴたりと止めた。そして、持っていた赤い花──そう、ひとくびきの花──をおずおずとわしに差し出したんじゃあ……

「あん時は、そうするのが最善だと直観したからのう。…それに、地面にへたり込んで震えながらわしを見上げる鬼はどう見ても捨てられた子犬にしか見えんかったけん、あないに捨てられた子犬オーラを出せるんは犬蔵さんしかおらんしのう!!かはは!」

 はぁ!?おまんそない風にわしを見ちゆうがか!?…まあえい、あん時はそれで助かったんじゃあ。

「それにしても無防備すぎたよ。本物の鬼だったらどうするつもりじゃったんか?」

 知らん知らん。もしもを追うんは爺婆になってからじゃ。

 

 それで、わしはその鬼(?)に花を手渡されてから、もう一度冷静になって他の鬼を見回すと、確かに白装束の鬼は何体か“ひとくびき”や“よみとつた”を持ちゆう。

 それでわしが、この鬼の中に仲間がおると確信した瞬間、突然ヒトの声が出せるようになった。……そうじゃ、その時までわしらが喋っていたと思うたのは鬼の唸りだけだったんじゃ。

 

『ッカハ、りょーま、おまんりょーまじゃな?』

『やっぱり犬蔵さん!気いつけい、まだ唸っちゅうのはどうやらほんまもんの鬼じゃけえ』

『わーわー待て!私は仲間だ!地面に書いただろう、な・か・ま!』

『あーこれ仲間って書いてあるのかあ!』

『識字能力!!!!!』

 文字の読めんセキとそれに襲われそうな紫陽花がまだ騒いじょったが、わしらは体制を立て直してほんまもんの鬼に斬りかかり、接戦の末、鬼たちを打ちのめすことができた……。

 

 無事に錯乱の妖術も解け、わしらは顔が見え、言葉の話すことのできる有り難みを噛みしめた。

『帰ったらちゃんと文字を勉強するんだぞセキ!!まずはひらがな!ひらがなからでいいから、な!?』

『わかったよぉ~』

『全く……でもなんとか全員無事に終わって良かった。怪我をした者は回復するように。セイメイの家まではもう少しだ!』

『おーー!』

 

 

  五杯目   式使いの陰陽師

 

 

『ん、あれは……』

 わしらが薄い霧の中で、ざくざくと草をかきわけ進んでおると、先頭のセキが立ち止まった。

 その肩からひょいと覗き込んだわしは、山の開けた頂上にぽつんと建っている家を見た。

 ……なんかしょぼい。そう思ったのはわしだけじゃなかったはずじゃ。

 ここまで手間をかけさせた陰陽師の住処にしては寂しい気がしたが、兎にも角にも紫陽花はその扉を叩いた。

『ごめんくださーい』

 

 カチャリと扉が開いた時、わしは思わずびくついてしもうた。と言うんも、玄関に駆け寄る足音も気配も、扉の奥から一切しなかったからじゃ。

 まるでわしらが来るまでずっと玄関の前で待っていたかのような……。

『どうぞ、お入りください』

 そう言ってわしらを引き入れたんは白装束の女だった。白い布で顔を覆って分からんかったが、どうも生き者特有の匂いが全くせんので不思議じゃった。あれが俗に言う式神ちゅうもんなんかな。

 

『──よくぞ私の試練を突破し、ここまでおいでなされたな。私こそがこの家と聖域たる霧の森の主、陰陽師のセイメイである。

 さ、式に茶でも淹れさせるから、どうぞお座りなさい』

 わしらぁはそうセイメイに招き入れられた。わしはまだセイメイちゅう男に信を置けなかったけんど、あこは彼奴の領域じゃけん、黙って睨みつけるだけにしておいた…。

「嘘じゃあ犬蔵さん、あん時思いっきり唸って威嚇しちょったろう」

 …噛みつくよりはマシと思うんじゃな。

 わしらは食卓だかの長机の前に座らされた。しばらくして式が持ってきた人数分の茶をわしは警戒しちょったが、龍馬ときたら『やぁ、どうも』なんてろくに確認もせず口をつけるもんじゃから、わしも思い切ってあおるしかなかったぜよ…

「あれ、だから頭を撫でさせたくない犬みたいな顔してたんか」

 おっまんなあ、何遍わしを犬扱いすりゃ気が済むんか!?わしはガオシャじゃが野犬と違うて理性も英知もございますぅ!

「あはは、冗談だよ…すまんって犬蔵さん」

 まっことしょうもないにゃあ…

 

 わしらが出された茶を啜っていると、セイメイは一息ついて切り出した。

『それで、今日はかような大所帯で…どのようなご用件かな?』

 わしらぁが正直に“正体看破の巻物”の譲渡が目的であると話すと、セイメイは底の見えん顔で『ふむ』と頷いた。

『生憎と、今ここにはその巻物は無い』

『なんだと!?なら何で私たちはこんな所まで…!』

 セキがそう剣に手をかけた時じゃ。

『まあ待ちなさい。実物は無いが、その巻物の作り方は私が知っている。早急に必要なのであれば、ここで君たちが巻物を制作するのに力を貸しても良い。

 それに、せっかくたどり着いた君たちを何も持たさず帰すなど陰陽師としての器が知れる』

『…ハァ?』

『君が制作者になるんだよ』

 わしは巻物を作るちゅうなんて疑問しかなかったが、仲間内で唯一陰陽道の士であるツムギ女史が『なるほど』なんて頷くもんだから、わしらは戸惑いながらその申し出を受けることになった。

 

 

  六杯目   巻物を作ろう!

 

 

─────────────

 

[材料]

 

ひとくびき・・・四輪

よみとつた・・・胴ひと回り 四本

 魔法筆 ・・・一本

 札用紙 ・・・四枚

 羊皮紙 ・・・巻物分

 魔力  ・・・少々

 

─────────────

 

『さて、今日は正体看破の巻物を作っていきたいと思う。式に下書き用紙とペンを配らせるから今から言うことをメモするように』

『ちょっ、待て、メモってまさか』

『作り方は全て口頭で伝える』

『ハアァ!?』

『それでは始めるぞ。その壱、あらかじめ魔力を付与したひとくびきとよみとつたを用意する・・・』

『ちょ、ま』

 

 有無を言わさずセイメイは空で作り方を暗唱し始めて、文字の書ける組は咄嗟に紙にかじりついた。わしは手持ち無沙汰じゃから適当に絵を書いたりセイメイのシュッと鼻筋の通った横顔を眺めたりした。

 暗唱は更に進んで行くが、セイメイはどもりもせずすらすらと言の葉を紡ぐもんだから、わしは感心して見入ってしもうた。

「わしはそんな余裕は無かったが、思えば確かに流石は陰陽師の重鎮じゃなあ」

 別に…人柄は抜きにして、腕はやるもんじゃなあと思うただけじゃ。

 ……ところで、あの人ん咳払いがどうも鈴のような独特の響きがあったんは不可思議じゃった。狐人族のそれによう似たモンじゃったが、狐の血ィでも入ってるんかな、とも思うたな。

「へえ?犬蔵さんは細かいとこによう気がつくのう。」

 暇じゃったからな。セキなんかは隣で骨つき肉の絵を書き終わったからわしに見せてきゆう、適当にあしらったら次は鳥の絵に挑戦するらしい。

 

『…おや?それはルーン文字かね』

『は?コレ?ただの落書きじゃが』

『んん?』

 セイメイはわしの線だらけの落書きを差して言うから、何じゃとびくついたね。なんじゃルーン文字て。落書きの線と線が交じることなんか腐るほどあるじゃろうに。

 

 

 そうこうしている間に、暗唱は終盤に差し掛かっていた。魔法陣の図式やらもお札(おふだ)に書く絵やらも口頭で伝えるもんだから、龍馬なんか頭を抱えちょったな。

 

『…はっ、これだから学の無い者は』

 

 制作に難儀するわしらを眺めてセイメイの野郎がそう呟いたのをわしは確かに聞いた。

 

『──おまん─リョーマを──……笑うたか?』

 わしは強い酒をあおったように胸がかっと熱くなった…。

『わーっ!犬蔵さん!ストップ!ストッープ!ステイステイ!わしなら気にしてないから!!ステイ!抜刀はまずいって犬蔵さん!』

 龍馬が刀にかけたわしの手を抑えていなければ、とっくにセイメイ先生ぇの首は飛んじょったところじゃ。

『チッ!これだから頭のえい奴は好かんちや…!わしらを馬鹿にしゆうきのう!どうせあない試練とかいう門をわざわざくぐって会いに来る友達の一人もいないんじゃろう!』

『し、失敬な!三年に一度くらいは客を迎えているとも!』

『それを友達がいない言うんやろが!』

 セイメイは、はうあっ!と喉を詰まらせて泣きそうな顔になったが、あん時のわしは悪くなかった思う。

「いやあ、あの犬蔵さんを宥めるのは大変だったぜよ」

 …迷惑かけたな。

 

 

  七杯目   儀式

 

 

 それからセイメイが小言を控えて素直になったからかは知らんが、巻物作りは着実に完成へと近づいた。

『龍馬、そこは魔法陣じゃのうて結界の四隅に、じゃなこうたか』

『あ、あれ?そうだっけ』

『…あぁ、そこは確かに結界の四隅にだ。キャンキャン喚くだけの仔狗かと思ったが違ったようだな』

『おまん…!』

『 セ イ メ イ せ、ん、せ、い?』

『…ッすまなかった…』

 なんじゃ龍馬が一にらみしてすぐセイメイがたじろいだんは見物じゃったのう!後ろに控えていた式が流れ弾を浴びて可哀想なほど怯えちょったが、おまんそない恐ろしい顔しよったんか?

「いやいや、わしはただニコッと笑いかけただけぜよ」

 ニコッと、にゃあ……。

 

『──できたぞー!』

 紫陽花が巻物をそう高々と掲げて、わしらはほうと息をついた。やっと外を見ると、もう陽がとっぷり暮れちょった。

『不慣れながらもよくやった。仕上げに、巻物と札に魔力を付与する儀式を疾く終わらせよう。こちらに来なさい』

 言われるがまま連れてこられた、薄暗い小さな部屋では式がちょうど魔法陣を書き終えたらしいところじゃった。

『ご苦労。さて皆の衆、魔法陣を囲い手を繋ぎたまえ。一人一人の祈りの力と団結力が大切なのだ……まあ、あの試練を突破した君たちには簡単なことだろうがね』

 セイメイは言いながらひとくびきとよみとつたを魔法陣に置いた。

『私のあとに続いて、そうだな…龍馬殿。まず貴殿が呪文を唱え、次に全員で復唱するのだ』

『えぇ?わ、わしですか…』

 

『──では、始めよう──』

 セイメイの暗唱に、龍馬が必死に食らいつく。それに続いてわしらも声を揃えて呪文を唱える。馬鹿の寝言のような音節ばかりじゃったが、なんちゅうかな…身体の中の魔力が息と共に流れていくのも感じた。それが輪の中央に置かれた巻物の上に、雪のように降り積もっていくのもな。

 …どれぐらいの時間そうしていたかは分からん。一瞬だった気ィもするし、何刻も経ったような気もした。窓の無い部屋なんも感覚を狂わせた。

 

 セイメイが節を唱え終わって、はたと口を閉ざすのをわしらは固唾を飲んで見守った。

『…成功だ』

 

 

  八杯目   締めに

 

 

 儀式が終了した後、夜の森を帰るのは危ないからと、わしらはセイメイ宅に一晩厄介になることにした。…んにゃ、向こうの方が是非にと誘ったのじゃ。子曰く、友人が式神だけだとやはり寂しいとのことじゃった……ハン、わしに言わせれば自業自得じゃ。

 紫陽花は食卓で一等良い酒を空けて上機嫌じゃったし、ツムギは大陸の魔術とアズマの陰陽道の違いとやらを熱ぅく語っておった。

 

「犬蔵さんかて、元々鋭敏な嗅覚を魔力で強化する術を教えて貰うて得意気じゃったろう」

 そないお偉いさん言うなら魔術の一つもかっぱらって来な面白うないからのう。…本当はあの高そうな銀の杯の一つでも手土産にしたかったが……

「駄目だからね!?ほんとに!いや犬蔵さんのクラスが盗賊だって忘れてたわしも悪かったけんど……」

 …龍馬に止められちゃあな。

 ……それにな。次にまた龍馬を見失うことがあったとて、必ずこん鼻で追ってすぐ見つけ出しちゃる、思うて…な。妖術は見た目さえ変えるが、匂いは誤魔化せん。

 おまんもよう覚えちょけリョーマ、どこにいてもわしが探し出しちゃるきのう!ふははは!

 

「んー、ありがとう犬蔵さん。よしよし……どうせ明日になったら覚えてないんだろうなあ……」

 わしの決意は変わらんぞーお、話も終わったことじゃからもう寝てもえいか?えいよな?スヤァ

「あれ?犬蔵さーん?……駄目だ、落ちてる……」

 …んーもう飲めんー…

「もう……せめて宿屋まで歩こ?無理?はぁー…だから言ったんに。調子に乗って飲むからじゃろうが……いやどうも、相すいませんねえ。それじゃ今晩はこれくらいで。

 …ほら、背負うから腕回して」

 

 おっちゃん、じゃぁな~…ご馳走さん…スヤ…

 

 

 

「…全く。

 

 ……おやすみ、犬蔵さん」

 

 

 

───げにまっこと、今晩はえい月じゃ。

 

 

 

 

 

 

回想:昼の章~挑みしは星辰の試練~

 

     ーーーー完ーーーー