千慮の愚者@紋章の人

全く使ってなかった厨二ページをLARP小説投げ箱に再利用。黒歴史?何それおいしいの?なので刺さる人には痛い遺物があるので要注意〜

Cerbero(チェルベーロ)

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「いいよなぁ、幻のエルフの里…みいんな騒いでんのに。カピタンはそのために船を出したんだし?

アタシも行きたかった〜〜はぁーッ」

 紫にうねる髪の女は、そう深いため息をつく。片手間にぐるぐるとレバーを回し、流れるような動作でスイッチとなる縄を引いた。

「ちっきしょ〜エルフのお祭りで踊りたかったのに!お姉さま〜!カピタン〜!みんな〜!

──この防衛ライン突破されたら…ゴメンね?」

 ドオオォォン!!!

 彼女の言葉は砲撃音に掻き消された。放たれた砲弾は放物線を描き、迫り来る巨鳥の群れ──ルクと呼ばれるモンスター──その一羽に直撃した。

「Evviva(やったぜ)!!」

「こらリエ、SEA(彼女)の口悪うつってるよ。まあ気持ちは分からないでもないがね」

 そう言ったのは、この危機的状況を前に、なおも楽しそうに笑いながらバリスタを斜めに構えている魔女だ。

「魔術師さ」

 失礼、ルーン魔術師のREOは、同じパーティの女海賊、グロリエラの愚痴を聞き流していた。その間にREOも怪鳥を一羽仕留める。

 彼女たちの背後に聳える火山から供給されるスチームエネルギーの機構により、弓は即座に引き絞られる。半束までに減った矢の一本を番えた魔術師は、空より来たる群勢を睨んだ。

 

「ボクだってさあ?こんな凍える山脈の一角で、ルク鳥の掃討をすることになるとは思わなかったさ。

 でもここでボクらが粘らなかったら彼らも──(ここでまたバリスタを発射するが、惜しくも空を切る)チッ!──メディナへイムで宴を楽しんでる冒険者諸君も、落ち着いてられないだろうし?」

「REOサ=ンだって舌打ちはマズイんじゃないですかねえ〜ッ?私は!ただのおつかいクエストって、聞いてたのに!」

 グロリエラは半ば躍起になって、ぐいとスイッチを引く。大砲の衝撃で髪が乱れようがお構い無しに、彼女は次の獲物に照準を合わせた。

 

 

 

         〜〜これまでの経緯〜〜

 


 彼女ら二人と、もう一人の仲間であるSEAと呼ばれる女が出会ったのは今から数ヶ月ほど前のことだ。

「……お姉さんたち二人とはなんだか他人の気がしない。」

「…奇遇ですわ、私もよ」

「ハハァ!またM[マンワズ]の導きか、いやいや、縁ってやつはこれだから」

 どこか外れている者同士だからか、三人はまるでパズルのピースが合うかのように意気投合した。

 ゼゼナン荒地にほど近い山岳。そこに聳える要塞のような町で受けたクエストは、「三つの地方のそれぞれの都市で製作された、超大型ガジェットの部品をそれぞれ回収する」というものだった。

「なーんだ簡単じゃないか!それでこの報酬額かい?…何だか怪しい気がするけど…残念ながら今の金欠のボクには、選択肢なんてあってないようなものなのだよ」

 そう悲劇の役者のように胸に手を当てたREOを、上質な毛皮で縁取られた黒いマントを羽織った女はちらと横目で見る。

「そう見くびるのは早計かと。三つの地方を回るだけといっても、超大型の部品におけるスケールが不明ですし、合計移動距離は大陸縦断と大差ないだろうと…思いますね」

「なるほどね〜?少なくともポケットに入れておけるサイズじゃないことだけは確かだ!」

「ハァ……」

 クエストは終始このようなテンションで進められたが、不思議と諍いは起こらなかった。それはSEA──当初はBlackと名乗っていた──が、変人の扱いが手慣れていたことが大きい。本来海賊稼業をしているグロリエラも、争いを好む性格では無かった。

「Blackが機械ジョブ、リエが戦士、ボクが魔法!よく考えるとバランスの良いパーティなんだね」

「一つも使えない魔法見習いがよく言いますね」

「これは手厳しい」


 このおつかいで特筆すべきなのは、我らが愛すべきフォックスハウンド、キャプテン・マルコフとの出会いだろう。グロリエラが彼との出会い頭に、

「キャプテン・マルコフ!あのフォックスハウンド!本物かい!?」

 と畳み掛けると、

「おや、貴女のような愛らしい女性にまで名前を知られているとは嬉しいね」

 などと話が広がり、部品工場のあるメテロライタ地方まで船に乗せて行って貰えることになったりした。

「あれは良いキャプテンだ、元々善人から奪うのが嫌で海賊狩りを始めたらしい。風をよく読むし海の声が聞こえている。ただちょっと…船がボロいんだよね…」

 のちにグロリエラはそう語った。

 

 

 

 さて、女海賊が理想のキャプテンにお熱になっている間、残り二人の間には陰謀と疑念が渦巻く事態となっていた。

 港の一角、薄暗い路地に紋章屋を呼び出したREOは重々しげに口を開く。

「…Black、君は一体何者だい?何故このクエストに参加した、いや──何故、“冒険者に紛れてクエストを受注するふり”なんてした?」

「……何のことだか。」

 その反応は分かっていたらしく、REOは気にせず持っていた新緑色のノートを開いてみせた。

「君は本当に沈黙が得意なのだね。これをご覧よ、もっとも君は見なくても分かるだろうが……

依頼された荷物や工場の至る所に書いてある紋章、これルーンのSとEとAを組み合わせたものように見えるね…紋章に詳しい君ならとっくに気づいていたはずだけど」

 REOはノートを開いたまま、黒いマントの女に近寄る。

「っ、」

 警戒するように後ずさった相手に、REOは口角をつりあげる。

 タネあかしをするようにぱたりと閉じたノートの影には、鋭くナイフが光っていた。それを置いた魔術師の瞳は、ナイフよりも鋭く相手を貫いた。

「君のそのモノクルにも興味を引かれるのだけれど、まずは質問に答えて貰おうかなBlack、それとも……SEA of Blackと呼んだ方がいいかい?」


「…Cavolo(ちきしょう)ッ」

 REOは、心底楽しそうにからからと笑った。例えるなら子供がスカートをめくった時のように、無邪気に。

「君の口が悪くなるのは追い詰められた時だ!S.E.A.とShe(彼女)を掛けるなんて君、センスの良いことするじゃないか。だかこの言霊使いに名前を偽ったのが運のツキだったねお嬢さん?」

 REOは役者のようにそう決める。が、相手に視線を移すとスッとしおらしい顔を見せた。

「そんな顔しないでおくれよ…あの工場長は君みたいにポーカーフェイスが上手くなかったんだ。でもね、お嬢さん。

“♪紐解いたルーンも聞いただけの名前も、別に君を脅したり、強請ったりしたいわけじゃない。

ただ一緒に真実を共有したいだけなんだ”

…なんてね」

 もう一人の仲間が口ずさむ歌を、REOは言葉を変えて歌い直す。が、ジャンプを失敗した場面を見られた猫のような顔は変わらない。珍しくREOの方がため息を零した。


「オーケイ、じゃあ事実確認をしよう。ボクが独り言を言うから君が突っ込むんだ、いつもみたいにね。

まず君は冒険者ではなく依頼者側の人間だ、それもかなり上の方。大方我々がヘマしないよう見張る、それと取引相手とブツの確認のためかな。そう考えると実に合理的だ」

 REOは物語を謳うように言霊を紡いでいく。

「そんなにも厳重に取り扱う必要のある超大型ガジェットとは?帝国の息がかかっていそうだぞ。まあそれは二番目に訪れた工場が帝都のど真ん中ってので確信したのだけれど。


 帝国があんな荒地に何の用だろうね、大昔に爆発し、大きな大きな山脈の、北の端にある古びたマグマだまりに。

 そういやボクらが出発する朝、大きな地鳴りが響いたよなあ。あの時の、グロリエラのなんてことないようにポテトを頬張る顔は正直チビった。

 ──帝国は一体あそこに何を隠してる?」

 


「二人とも〜?こんなところで何してんの?」

 薄暗い港の裏路地に、グロリエラがひょっこりと顔を出す。SEAは、マントの毛皮をそっと撫でながら表情を不器用に柔らかくさせる。グロリエラがそれにぎょっとしていると、

「騙していてごめんなさい。…全て話すわ、このクエストについて、何もかも。」

 面倒ごとの気配を感じ取った女海賊は、魔術師を恨めしそうに睨んで、それから、海よりも深いため息をついた。

 

 

 

「これは私のMaestro(ご主人)─いや、Babbo(親父)から託された100年に一度の使命なんだクソッタレ…義理とはいえ娘にこんな面倒ごとを遺してくなんて…」

 曰く、砦の地下深くには、地鳴りや噴火をコントロールするための(とても遠回しな言い方をした)ガジェットがいくつか眠っている。管理しているのは帝国ではなく、帝国の庇護を受けたR.I.D.A.(リダ)と呼ばれる発明家学会、彼女の養父はその設立メンバーだそうだ。

 その学会の使命の一つが、地下に眠るガジェットのプログラム機能期限、また耐久性を考慮して100年に一度取り替えることだという。


「三つの部品はそのうちの一つ、特別な魔力ゲート“Cerbero(チェルベーロ)”を形作るためのもの。地底コントロールの仕組みを学んだ諸君をR.I.D.A.の会員として認めます」

「な〜るほど(死んだ魚のような目)」

「cerbero…ケルベロスか!だからロゴがそれぞれ三方を向いた犬だったのだね!」

「…REO、貴女の言葉を一つ訂正するとすれば」

「おや、何か間違っていたところが?」

「私をSEA(シー)と呼ぶようにしたのはBabboよ」

 SEAはどこか懐かしむように、照れ臭そうに、喪服のような黒いマントの襟を引き寄せた。

「……そうか、軽薄に口にしてすまない」

「いいえ、いいえ。この名も頭文字に過ぎないの。でも貴方達二人には、この名で呼んでもらいたい」

 REOとグロリエラは弾かれたように顔を上げた。それから二人で顔を見合わせて、

「オーケー!改めてよろしく、SEAちゃん」

「話してくれてありがとうSEA、言霊はしっかり預かった」

 と笑いかけるのだった。

「あ〜あ私お腹空いちゃった」

「この港の葡萄酒は一瓶空ける価値がある」

「それは許可できませんわ。せめて半瓶(デカンタ)にしておきなさい」

「これは手厳しい!」

 なんて言葉を交わし合いながら、三人は揃って明るく賑やかな港へと歩き始めた。

 

 

「クエスト達成お疲れ様です!こちら報酬になります!」

 無事部品を砦に持ち帰り、三人はクエストを報告した。受付カウンターには三つの報酬袋が置かれたが、二人はSEAの顔を見た。

「…必要なのかい?」

「そういうのマッチポンプっていうんだよ」

「ばれましたか」

 受付嬢はぎょっと顔を上げる。見上げた先はSEAではなく、言葉を発した部外者、のはずの二人だ。SEAが受付嬢にひとつ頷くと、受付嬢は状況を把握して動揺しながらも、何も言わず報酬袋の一つを引っ込めた。

 REOは久しぶりに手にした銀貨の重みに感動しながら、早速袋に手を突っ込んだ。

「また無駄遣いをするつもりですか、」

「ほい」

「…えっ?」

 REOは銀貨2枚をSEAに差し出した。

「宿代、飯代、酒代、その他もろもろ。報酬から返すって言っただろう。利息はえっと…何割?まあいいや、これで足りるだろう」

「…本当によろしいので?」

「言霊使いは約束を蔑ろになどしないさ。茶葉でも買ったらいいんじゃないかな」

 SEAは恐る恐る銀貨を受取る。ひんやりした銀を握りしめると、手の中でチリリと鳴った。

「……感謝致します。私はこんな──」

 ──ゴゴゴゴゴゴッ!!!!

「なッ」

「うわ、っと」

「大きいねえ〜みんな大丈夫?」

 大地が揺れる。緊張の中で受付のある酒場の視線が一気にSEAに集まって、これをただの地鳴りとして片付ける人間は、もうこの酒場には存在していないことを二人は知った。

「…お二人とも。これは私の勝手な望みなのですが」

「手伝うよ」

 長く続く揺れの中で、机にしがみつきながらREOはSEAの目を見た。

「…ちょっ〜と聞きたいんだけどさ、これどんだけヤバい系のやつなん?この砦?それとも地方?もしかして大陸までヤバたにえん?」

 グロリエラは揺れの中でも余裕げに立ちながら、尺度を手で表してみせた。SEAは呆れのため息を漏らす。

「大陸ヤバたにえんです、つらみ」

 投げやりに伝えられた言葉に、グロリエラはステップを踏むようにバランスを取った。

「じゃ、どこにいても変わんないね。私に……んにゃ、私たちに出来ることって、あるかな?」


 しばらくして揺れが収まると、SEAはひとつ深呼吸する。そしてバサ、と黒いマントを翻した。

「緊急クエストを発令します!受注条件はR.I.D.A.メンバーであること、内容は“劣化した地底コントロールガジェットの取り替え、及びそれに伴う魔獣の掃討”です!

各班!速やかに持ち場へ移動を開始せよ!」

「「「イエス、シー!!」」」

 一気に慌ただしくなる現場を、新入り二人は唖然として眺めていた。

「“及びそれに伴う魔獣の掃討”だってさグロリエラ」

「勢いでああ言ったものの各班って何?状態だよな〜」

 REOはR.I.D.A.の活動に興味を持ったのか、手持ちのノートに狂ったように羽根ペンを踊らせる。

「手短かに説明するわ。貴女たちにやってもらいたいのはその通り魔獣の掃討。取り替えるということは一瞬でも取り外さなければいけないということ。その間プロm、火口から溢れ出る膨大な魔力がモンスターを呼び寄せる…

 地を駆けるやつらはまだいいの、ご存知の通りその為の要塞だしね。問題は怪鳥ルク──火喰い鳥とも呼ばれている──。空からの猛攻は人力で対処しなければならない。ここまでは大丈夫?」

「オーケー、機械の調整とか言われたらどうしようかと思ってた」

「つまりやることは実にシンプルなのだね」

「そういうことよ」


 SEAは二人を外へ連れ出した。入り組んだ要塞の階段を登り、ドーム状の屋根を回り込み、また階段を登った先にはずらりと並んだ最新式大砲とバリスタの台。

 ピュウ、とREOが口笛を鳴らした。

「これはSEA!設備の準備は完了致しました、いつでも迎え打てます」

「そのようね。空いている砲台はあるかしら」

「Cラインの右側に五台ほど空席がございます。そのお二方は…?」

「新入りよ。使い方を教えてあげて。

二人とも、私には下でやることがあるからここで一旦お別れ。運が良ければまた会いましょ。…いえ、貴女たちならきっと大丈夫ね」

「星の光が君に注ぎますように」

海の声が導きますように」

 三人の女たちは、それぞれの祈りを口にして拳を合わせた。

 

 

 

「ということなのさ」

 ドオォン!!

「何か言ったァ!?」

「いや、ただの独り言さ」

 回想を終えると、REOはバリスタの照準を覗き込み、鼻歌混じりに獲物を定め矢を放った。

 巨体が地面に落ちるドサッという鈍い音が聞こえる程度には、怪鳥たちとの距離は狭まっていた。小刻みな地鳴りが更に焦燥感を煽ってくる。

 しかしそれで動じないのがグロリエラだ。REOに続いて大砲をぶち当てると、腰に手を当てて背骨を伸ばす。

「10発中7発!まあこんなもんか」

「お遊びじゃないんだがねえ」

「いいでしょこれくらい?いやあ長丁場だなぁ、山が最初に炎を吐いてから30分が目安だと言ってたのに…にしてもアレを30分で付け替える予定とかバケモノかよ」

「どれくらい経ってる、リエ?」

 グロリエラは手元の懐中時計を開いた。

「開始50分を過ぎたとこ。頼むよCerbero、冥界の番犬ちゃん!もうAライン突破され……Bもダメだな?一息ついてる場合じゃねえ」

 女海賊は即座に台座に足をかけて縄を引く。蒸気エネルギーが満たされた砲台から鉄の玉が飛び出すが、怪鳥にひらりとかわされてしまう。

「ヤバいかもなあ、持ちこたえられるかコレ」

 ゴゴオォォ…

「おっとお!?」

 一際大きな地鳴りが要塞を揺らす。グロリエラは山を見上げた。

 その瞬間、山から高く炎が噴き出した。それは噴火ではなく、ガジェットが正常に作動していることを示す証だった。

「見ろ!ルクどもが帰っていくぞ!」

 防衛線の見張り班の一人がそう声をあげる。ビューの魔法で視力を補正されたという彼の言う通り、ルク鳥の群れは魔力を感じ取れなくなると一斉に踵を返し、あっという間に山脈の向こうへと消えていった。

「勝った…のか」

「負けていないのだから勝ったのだろうよ。やれやれ、やっと報奨金の計算ができる」

 いまだ呆然と山を見上げるグロリエラの後ろで、よろめきながらREOが立ち上がる。

 発射台から要塞の下を見下ろした彼女は、ぽつりとこう呟くのだった。

「丁度良い、羽根ペンを替えておきたいところだったんだ」


 その後二人は、土ぼこりまみれで生還したSEAと抱擁を交わした。

 そして、防衛成功と新メンバーの加入を祝して開かれた宴は、夜が明けるまで続くのだった。

 

               〜〜〜   FIN   〜〜〜