千慮の愚者@紋章の人

全く使ってなかった厨二ページをLARP小説投げ箱に再利用。黒歴史?何それおいしいの?なので刺さる人には痛い遺物があるので要注意〜

和風チュートリアルLARPリプレイ小説2


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※以下の注意をよくお読み下さい

 

・今作には軽くグロテスクな表現、及び暴力表現が含まれます。ストーリーが分からなくなってしまう場所以外は目印に**を前後に配置しますので、苦手な方は全力で回避してお願いします。

 

 

・うろ覚えのため台詞や行動が正確ではない(アレンジ)

 

 

 

・なんちゃって土佐弁。舞台となるアズマは本物の日本ではありませんよ!

 

 

 

・ストーリー展開以外の細かい時系列の入れ替え

 

 

 

・犬蔵の独断と偏見によるフレーバーとしてのキャラ解釈&拡大表記

 

 

 

等が混じっていますワンぜよ

 

※なお、今作は https://austella05.hatenablog.com/entry/2019/04/03/183727 の続きものです。先にそちらをお読み下さい。

 

 

 

 

 

  ーーーーそれでは、開幕ーーーー

 

 

 

[──孤独に酒を煽る犬蔵。そこに声をかけた同族の青年の頼みで、犬蔵は再び自分の冒険譚を語り出す──]

 

 

 

──はぁ…どういたもんかえ……

…今晩の酒は味気がせんぜよ。のうりょーm……いや。そうじゃった。わしとしたことが……

 

ァン?なんじゃ、馴れ馴れしいのう。わしは今機嫌が悪いんじゃ…しょうもない要件じゃったら覚悟しい、同じガオシャとて容赦はせん。ここでおまんをぶった斬る…!

─は?わしがそない噂になっちょるんか?チィ、あの狸のおんちゃん覚えちょけよ……!

……ふうん?そこまで言われるなら悪い気はせんのう?

……ああ、龍馬のことがか。喧嘩別れして、今晩はここでこじゃんと飲んじゃる思うたところでな。

…は、ええんか?いやいや、竪琴の代わりにエモノが刀なんて吟遊詩人がどこにおる!

……まあ、わしもこん前は興に乗って悪くは無かったし…丁度寂し、いや暇だったところじゃし……

 

あい分かった、稀代の名語り師たるこの始末犬蔵が、夜酒の肴に語っちゅう。おまん、名は?

…柳兎、か。ハン、軽薄そうな名じゃのう…

 

 

  一杯目   月夜の冒険

 

 

 始まりの冒険は…もう飽きてしもうたにゃあ。じゃあ今日はあれと縁のある、あの村での話をしゆうか。

 

 わしら…コホン、わしが郷から飛び出した後すぐに受けた依頼で、わしは人生初の“巻物制作”を体験した。

 その依頼を報告して数日経ったある日、その時作った“正体看破の巻物”をとある村まで届けるちゅう依頼が出されてたんで、わしはその巻物制作したのと同じメンバーで集って受けることになったんじゃ。

 

 ナキ(兎)族の薬草師-ウー・ダンダンは、兎の血が濃いらしく顔が獣に近かった。そんな彼に付き添う同じくナキ族の陰陽師-紬(ツムギ)は、じゃらじゃらと魔導具をぶら下げて、異国らしい独特の着物の柄が印象に残っちょる。

 鮮やかな朱い着物で華麗に斧を振り回し、戦場を舞う我らが姉御-紫陽花(アジサイ)、そしてこのわし、アサシンの犬蔵と巫覡の龍馬。

 ……もう一人、無鉄砲な赤毛のガオシャ-赤(セキ)がいたんじゃが、あいつは…──

 

『世話になったな!俺はひらがなを習いに行く──何年、いや何十年かかっても修得してみせる!ウオオォ!』

 ──ちゅうて寺子屋に行ったな。何故かって?色々あったんじゃ、色々。

 

 で、じゃ。そんなわしらが依頼を受けて村に向かうと、深い森を抜けにゃならん。

 前の日降った雨のせいで足元もおぼつかんし、予定より時間がかかって、村にたどり着くまでに日が暮れおる。

 見上げてみても、お月さんは鬱蒼とした木々の間からしか覗かんし、鴉が数羽、不気味な声をあげて頭上を通り過ぎるばかり。万一にと持ってきた二灯のランタンだけを頼りに、わしらは暗い森を進んでいった…。

 

 わしらがやっとのこと村の看板を見つけた時、一羽の鴉がその看板に乗っていた。紫陽花がその鴉を追い払った先を見たのが、悪かったんじゃにゃあ…

『ぅ、うわああぁ!?』

 わしらはその悲鳴に驚いて、反射的に紫陽花の視線を追った。

『──ッヒ、』

 そこには千切れたヒトの四肢が転がっておった。

 

**

 

 

 

 わしは呆然と立ち尽くして、目の前のモノから目を離すことができんかった。

 

 切り口はまだ真っ赤な血を零し、鴉がつつくたびにどろりと地面を濡らしておる。

 なにより異質なのは、肌の所々に謎の粘液がぬらぬらと光っていたことじゃ。光っているちゅうんも、比喩でもなんでもなく、言葉通り妖しく“光っていた”。

 その薄い蛍光に照らされて、その場は壮絶な光景を顕著にしていた。

 

 

 

**

 

  二杯目   村の危機

 

 

 わしはガオシャでも特に鼻がいいき、普通、薄暗くともすぐそこに腐った死体があれば嫌でも気づく。そのわしが分からんゆうことは、その死体はすぐさっき死んだっちゅうことになる。

 死体の肌にまとわりついて光る粘液を木の棒でつつきながら、ウー・ダンダンが呻いていた。

 

『り、龍馬、これはまだ新しい』

 後ろをよそにわしは言った。

『…ならやっぱり、例の行方不明者なんじゃろうか。……犬蔵さん、大丈夫がか?』

『………』

 わしは血の気の失せた顔で黙りこむことで答えを返した。

 

 わしらが受けた依頼ちゅうんは、行方不明者が続出しとる村の唯一の陰陽師から来たものじゃった。その陰陽師はその行方不明事件に例の巻物が必要だと踏んだらしく、冒険者ギルドにこの依頼をしたらしい。

 

『お前たち、何者だ!』

 と、聞き知らぬ声がかかってきて、わしは思わず舌打ちをした。これは面倒なことになる、とな。

『な、な、これはキリツグか!?お前らが殺したのか!!』

 そこには数人の屈強な男衆が武器を構えていた。向こうは死体を見て錯乱しておったし、わしらも混乱しておる。一触即発の雰囲気じゃったが、そこに龍馬が一歩前に出た。

 

『待ってください、我々はただの冒険者です。この村の事件を解決するために参上致しました故、どうか落ち着いて話を聞いてください!』

 なんて。龍馬はわしに対してと、それから熱くなった時以外は流暢な標準語を話す。人ったらしでお人好し。それ以外の才能も無い癖に…。

 

 男衆は龍馬の堂々とした物言いに大分落ち着いたが、まだわしらを訝しんでいるようじゃった。

『どうだかな……とりあえず、村長の家まで連行させてもらう!話はそれからだ』

『望むところです』

 そうしてわしらは強制的に村長の家まで行くことになった。

『おい!痛いぞ、離せ!』

『うるさい!貴様らの立場を弁えろ!』

『まあまあ、紫陽花さんは女性なんですしもう少し優しく、お願いできますか』

 紫陽花は強引に腕を引っ付かんでくる男と言い合いになっていた。向こうさんもわしらもピリピリしゆう、龍馬はそのたびに場を収めていた。

 

 

 そんなこんなで村長の家までたどり着くと、眉間の皺を深くした村長が出迎えた。

『村長、キリツグの死体を発見しました。その近くにこいつらがいたんだ、犯人に決まってる!』

『待ってください!まずは話を聞いてください』

 村長はわしらと村男をじっと見くらべた。

『ふむ……セツ、彼らはこんな時期とはいえお客さんだ。手を離してやりなさい』

 その村男はセツという名前らしかった。セツは渋ったが、不承不承、手を離した。

 

『して、この村には何用に?冒険者殿』

 わしらは依頼を受けて山の向こうから来たこと、死体を偶然見つけたこと、事件には関与していないことを話した。

『そもそもわしらが来る前から人死にはあったんじゃろう?わしらはそれを聞いて赴いたゆうに、どういてその事件と関わることができるがか?』

『た、たしかに…。しかし、依頼か。私は知らなかったが、誰が出したものだ』

 それを言われてわしはぎくりとした。依頼人の名前をド忘れしてもうたからじゃ。

 

 これはまずい……そんな時でも龍馬は冷静に答えた。

『ノリシさんという方からです』

 それを聞いてほっとした。そして次からは依頼人の名前をメモしておこう、そう心に決めたわしなのであった。

 

『ああ、ノリシか……残念だが彼はもう…』

『そんな!』

 どうやら依頼人は少し前に遺体となって発見されたらしかった。もう手足しか無いが、村の墓地に埋葬されているそうじゃ。

『依頼を達成した報酬に関しては、村の代理人である私が用意しましょう。と言っても元々大した財源もなく、細々とやっていた小さな村ですので、質は期待しないで頂きたいですが……。』

 村長はそう困ったように眉を下げた。

 

『巻物は届けましたが、…では受け取り人は村長さんでよろしいですか?』

 龍馬がそんなことを言いながら巻物を懐から出そうとするもんじゃから、わしは慌てて止めた。

『待ちぃ龍馬!』

『何じゃ、犬蔵さん』

『何じゃじゃないわ、こん馬鹿者…!この巻物が何の巻物か忘れたか!』

『え、正体看破の巻物?』

 “正体を看破する”必要があるちゅうことは“何かに化けている”というこった。

 それが何に、もしくは誰に化けているのか分からない以上、顔を合わせたばかりの村長に大事な巻物を渡す訳にはいかない…。

 そのわしの考えが何となく伝わったのか、龍馬は一つ頷いて巻物を戻した。

『…いや、やめておきます。この巻物は村に必要なようですし、幸い我々はこの巻物を制作した張本人でもある。使い方も承知していますから、これは我々が預かっておくことにします』

『あぁ、それでいいが…』

 わしは村長の眉間の皺がぴくりとも深くならんのを確認してから、軽く龍馬を肩でどついた。

 

 腕をさする龍馬を無視して、わしは紫陽花に顔を向けた。

『で、これからどうするんじゃ、姉御』

 紫陽花は腰に手を当てて考えた。

『そうだなあ……この事件を解決しない限りまともな報酬も無さそうだし、乗りかかった船だ。この村で起きている連続怪死の謎を解決する!それでいいか、皆?』

 わしらはもちろん、声を揃えて賛成した。全く誰も彼もお人好しじゃのう。

『それは有り難い。この村にはもう縄が残って─』

 じゃない、

『もう一刻の猶予も残されておりません。村を見て回るのでしたら、失礼ながら監視役としてセツを傍に置きますが…』

 そう村長はセツに目配せした。

『構いません。まずは亡くなった陰陽師のノリシさんの家を捜索させて下さい』

 龍馬がそう提案して、わしらは事件解決のため動き出した。

 

 

  三杯目   村の調査

 

 

 ノリシの家に着くまでに、セツはぶっきらぼうながらこれまでの経緯をわしらに話した。

 

 最初の行方不明が出たのはおよそ一ヶ月前で、その時は神隠しかとも思われたが、数日後にバラバラになった遺体が発見され大騒ぎになったらしい。

 被害者は分かっているもので十五人、毎回一晩に一人、数日して発見される遺体にはどれも不気味に光る粘液が付着していた。

 

『光る粘液…バラバラ死体…』

 話を聞いた紫陽花がぶつぶつと呟き始めて、わしは心当たりがあるのかと聞いた。

 どうやら光る卵を死体に産みつける化け物の噂を祖母から聞いたことがあるらしい。じゃが肝心な所は思い出せず、天を仰いで唸っておった。

『もしかして、変身能力があるがか?でないとノリシが何故巻物を届けさせたか分からん』

 と言ったところで、今度はツムギ女史が

『あっ!』

 と声をあげた。

『人喰い鬼かもしれない!』

 

 ツムギ女史の博識の中に、丁度その特徴と合致する妖怪があったらしい。

 女史曰わく、その人喰い鬼は人間の体に卵を産みつけ、数日後に孵化した幼体に死肉を喰わせて殖えるそうで、人間に化ける能力と、人を魅力する能力があるらしかった。

『じゃ、村の誰かにその鬼が化けてると言うのか!?』

 セツが悲壮そうに叫んだ。頭をかきむしり、そんなことは有り得ないと小さく呟いていた。

 そんなセツを、紫陽花は難しい顔で見ていた。

 

 

 陰陽師の家はがらんとしていた。セツが扉を開けて中に案内するが、そこは最初から誰も住んでいなかったかのように何もない部屋だけが置き去りにされていた。

『遺品はほとんど処分したんだ。元々少なかったし、ノリシのこと思い出すのは辛いからって、村の皆が。』

 セツは鼻を啜って、残ったものは急あつらえの墓の近くに置いてあると零した。

『じゃあそれを見にいきたいアルよ。我々はあまりにも情報不足アル』

 わしらはダンダン氏と仲間の意見を聞いて、もう一度何もない部屋を見渡してからノリシの家をあとにした。

 その家の何もなさに、わしは密かにきな臭さを感じていた。

 

 セツの案内で立ち入った夜中の墓は、事件のことも相まって、それはそれはしょう不気味に思えた。

 どこからか低く響く鴉の声、ざわざわと揺れる木々、そして嘲笑うかのように細まった月。

 踏み出すたび、ぱきりと枝の折れる音だけが高く響いた。

『……犬蔵さん、もしかしてびびってる?』

『びびびびってなぞにゃか!な何を言う!』

『いやでも尻尾が』

『触んな!このスベタァ!』

『ごっごめん』

『そこ、いちゃつかない』

『いちゃついてないわ!』

 紫陽花の一喝にわしは龍馬の腕を離した。それにしても、むせかえるような腐臭に、わしは思わず顔をしかめた。

 

 陰陽師、ノリシの墓は急あつらえとの事もあって墓地の奥のほうで、簡素な墓石の辺りを探すと、風呂敷に包まれた弁当箱ほどの木箱が見つかった。

 その中をよく調べると、隠された紙切れを見つける。それにはこう書かれちょった…

 

[私の陰陽術を持ってしてもこの村の脅威を退けることは出来ない。もう誰を信用すればいいのか分からない……人喰い鬼は人間に擬態し、魅了の妖術で言いなりにさせ、卵を産みつけ、そして喰らう。せめてここにあの巻物があれば…

──おや、誰か来たようだ(ここでメモは途切れている)]

 

『やはり人喰い鬼だったか…!』

 紫陽花は犠牲者を救えなかったことを悔しんでいるようだった。メモを握る手が震えていた。

 わしらが感傷に浸ってた、その時。

『ぁ、ああ…』

 後ろで、がさりとセツが座り込んだ。

 そしてその視線の先には──

 ──何体もの醜い鬼が、墓を掘り返し屍肉を漁っていた。

 

 

  四杯目   汝の血は何色ぞ?

 

 

 わしらに気づいた鬼どもは牙をむいて唸り、わしらに殺意を向けてくる。

 セツは怯えて使いもんにならんようじゃったから、わしらは仕方なくセツを庇うように陣形を整えた。わしと紫陽花、ウー・ダンダンは前に出て、龍馬とツムギが後衛から支援する典型的な陣形じゃ。

 

 動揺したわしはその間に鬼に先手を取られた。鬼は思ったよりもすばしっこく、鋭い爪の切っ先を受け流しきれず、わしの肩を裂いた。

 が、わしも身を翻して刀を鬼の腕に当てる。黒い血が顔まで跳ねた。

『チィッ…』

 刃を当てた感覚だと、鬼は緑色の鱗だか肌だかが堅いように思えた。

 続く紫陽花、ウー・ダンダンにツムギも思いのほか傷を与えられず、ようやく龍馬の投げた手裏剣が鬼の身を捉える有り様じゃ。

 

『落ち着け、皆!血が出るなら倒せるはずだ!それに見た感じこいつらはまだ若い。ここで死肉を漁っていた幼体だろう。』

『そうだね、それに堅いけど突きに弱いみたいだ。犬蔵さん、刀を押し込むんじゃ!諸手突きがえいかもしれん!』

『ああ……聞こえちゅうちゃあ』

 全く、わしの相棒は──的確なご指示をなさる!

 

『覚悟せえ!』

 龍馬が投げた複数の手裏剣に戸惑った鬼は、迫るわしに気づき避けようとする。が、

『遅い!』

 刀の切っ先は鬼の肩を突き、わしはそのまま袈裟斬りを浴びせた。

『天──誅ゥ!!』

 鬼はその途端、女の悲鳴のような甲高い絶叫を挙げた。

 ……わしはその一瞬、刀から腕へと伝ってきた重い感触に既視感を覚えて呆然とした。

 

『ッ犬蔵さん、後ろ!!』

『へ、』

 刹那、鬼の爪が耳元で風を裂く音が聞こえた。

 

** 

 

 振り向くと同時に訪れる、衝撃。びりりと薄い布が破れ、背中の肉が、筋肉が抉られる感覚。真っ赤な血しぶきが鬼の爪を汚す。

 遅れて脳に届いてしまった痛覚は、灼熱の鉄板を背中の全面に押し付けたようで。全思考が遅すぎる警鐘を一斉に鳴らしていた。

 

**

 

『なんっ……じゃあッ…!』

 思えば、その鬼はわしが切り裂いた鬼の兄だったのかもしれん。──なんにせよ、怒りに満ちた鬼の顔に赤い血糊が飛ぶ光景を、わしは今でも忘れられん。

 

『犬蔵さんっ!!』

『犬蔵、早く下がれ!』

 派手な怪我を負ったわしは、仲間に庇われながら鬼の隙を突いて前衛から脱出した。

『代わりにわしが前に出る。犬蔵さんは動かんように大人しくしい!』

 龍馬の鬼気迫る態度に、わしは仲間が戦うんをただ見ていることしかできんかった。

 事実、先と同じ一撃をもう一度喰らえば、流石にやられてしまうことぐらい、自分が一番よく分かっていた。

 背中に伝う温い血がじくじくと傷を焼く感覚に消耗しながらも、ツムギの投げた渾身のチャクラムが鬼の首をスパッといくのを見届けて、わしはついに膝をついた。

『犬蔵さん!』

 黒い砂のように消えていく鬼の屍に見向きもせず、龍馬はわしの方へと駆け寄ってきた。

 

『け、犬蔵さん、心配すな、何の為にわしが巫覡やってきてると言うんじゃ、今治しちゃる、犬蔵さん死ぬんじゃなか…!』

『おいりょーま』

『犬蔵さんは黙っといて!──[アマテラスよこの者の傷を癒やし賜へ]、[アマテラスよ、この者の傷を癒やし賜へ][アマテラスよこの者の傷を癒やし賜へ]…!!

ああクソッ!夜じゃからいまいち治らん!』

『りょーま、落ち着け』

 龍馬は乱れた銀の髪をそのままに、バッと顔を上げた。

 

『これがどういて落ち着いてられるがか!犬蔵さん自分の傷見たんか!?酷いもんじゃぞ!曲がりなりにもおなごじゃちゅうのに、全く…!どういて反撃しなかったんじゃ!』

 わしは黙り込んだ。確かに、あの一瞬刀を振るって攻撃を受け流す余裕はあった。

 そうすればこんな深い傷を負うこともなかった。

 ……けれども、

『……中(にく)は同じ手応えだったんじゃ、ヒトと。』

 龍馬が息を呑む音が聞こえた。

 

 鬼の表皮こそ堅いが、それに守られているやわな筋肉は、人間とほぼ変わりはなかった。…ヒトの肉を喰うてるからかな、とわしは思う。

『だから躊躇った。同情なんぞじゃなか、ただ、……こわくて、手が、震えて。

 もう、スジの裂けてブチブチいう音も、骨の絶つ音も聞きとうない』

 

 ──ヒトを斬ったことがあるのか、か。そうじゃにゃあ……。これは、わしと龍馬が郷(さと)を出たきっかけにもなったんじゃがな?

 

 ……龍馬は郷で唯一、アマテラスを崇める家の坊主でな。そのせいで心無い言葉や悪意をぶつけられることがしばしばあった。

 …わしはそれを一番近くで聞いていたから、ある日耐えきれなくなって──ズバッと、のう。龍馬が止めてくれる余裕が無いほど落ち込んでいた、とも言う。

 幸い、相手は一命を取り留めたが、龍馬は進んで責任を共負いして、二人揃って郷を追放になった…ちゅうことじゃ。

 

 

  五杯目   解決策

 

 

 ああ、話が逸れてしもうたな。こないな時何ちゅうがか……そうじゃ、閑話休題

 

 墓で若い鬼をやっつけたところじゃったよな……わしが負った怪我を慌てて治した龍馬じゃったが、その直後にウー・ダンダンが呆れたような目でわしらにこう言った。

『…いや戦闘中じゃないアルし、そんな魔力を使わなくてもワタシの調合した薬草使ってくれれば治りも良かったアルのに……』

『あ』

 ……わしらは揃って氏が薬草師ちゅうんことを忘れておったんじゃ。ただの間抜けとしか言いようがあらん…w

『ばあたれ龍馬、いざちゅう時魔力切れになったらどうすんじゃ』

『いやまあ……うん…焦ってたし…?次からは気をつけゆうよ…』

 龍馬はそうバツが悪そうに頭を掻いた。

 

『とにかく』

 全員が落ち着いてから紫陽花が立ち上がった。

『敵の正体は掴んだ。そしてそれをどうにかするための鍵は、既に我々の手の中にある!』

 紫陽花はそう言って龍馬を指差した。

『わし?』

『巻物じゃあほ』

『あ、そっか』

 

 ウー・ダンダンがコホンと咳払いして後を継ぐ。

『確かに。件の人喰い鬼とやらは十中八九、村人の誰かに化けているはずアルよ。問題は誰に的を絞るか、アルが……』

 わしらは考え込んだ。残った村人は10人、そのうち何体かの鬼に確実に術を浴びせるにはどうしたらいいのか……。

 

『…そうだ!』

 紫陽花がぽんと手を叩く。

『村ごと結界張っちゃえばいいんだ!』

『──はあぁ!?』

 わしらは驚愕に声を揃えた。

『それじゃ、紫陽花さん!術の効果がかかる結界の範囲に制限はなか、天才か!』

 龍馬はよほど興奮したのか、普段他人に使わん地訛りが零れちょった。

 

『そうは言っても儀式に必要な材料があるの…?』

 ツムギ女史が尋ねる。すると、ウー・ダンダンが墓に佇む樹の幹を叩き、

『この樹に巻きついている蔦こそが例の[よみとつた]アル。どうやらこの山はあの森と生態系はあまり変わらないアルよ』

 と胸を張った 。生態系だのわしはちんぷんかんぷんじゃった。

 

 わしは同じく首を傾げているセツに近寄った。

『のうセツにいやん、このあたりで水辺はあるかえ』

『み、水辺?まあ、あるが』

 わしらはセツに、村の近くにあるという小さな池に案内された。池の中には錦鯉が小さく波をたてていた。

 そのほとりには見知った赤い華─[ひとくびき]が咲いちょって、わしらはそれを丁重に四輪摘んだ。

 

 それで、[正体看破]の儀式の材料は揃った。

 

 

   六杯目   人斬り

 

 

 わしらは一度、 儀式の許可を得に村長の家へ戻った。村長がセツから一連の事情を聞かされていると、いつの間にか噂を聞きつけ野次馬に来た村人たちが集まって来てしもうていた。

 

 わしの鋭敏な嗅覚で鬼の匂いを追うにも、人が集まりすぎていた。それでも確かに色濃く漂ってくるヒトならざる気配に、わしは仲間の傍を離れることができんかった…。

『よろしいでしょう。儀式を許可します』

 やっと村長がそう告げて、わしらは準備に取りかかった。

 巻物を広げて確認すると、儀式にはまず結界の四隅に[よみとつた]と[ひとくびき]、それから術専用のおふだを設置し、更に結界の中央に魔法陣を描かなければならなかった。

『お札…は、これだね』

 龍馬は、巻物と同時に作った札を取り出す。

 

『じゃあ二班に分かれようか、設置班と魔法陣班。

 僕はひとくびきの魔力活性化用呪文を覚えているから、設置班が妥当だと思うけど』

 と龍馬。わしは龍馬と同じグループを志望した。

『じゃあ…一カ所に留まる魔法陣班の方が危険だし、人数比は2-3のこの配置でいいかな?』

 残りの衆もそれに同意して、わしと龍馬は蔦、華、札、それからランタンを一灯持って魔法陣班に別れを告げた。

 

『……もう震えてないんやの、犬蔵さん』

 わしはそう言ってからかう龍馬に、くらがりで歯をむいて小さく唸る。

『そない怖いんか?〈あれ〉が…いや、』

 隣を歩く龍馬からふわりと香る、お日さまのような匂いは、村長の家から遠く離れても漂う鬼の気配を紛らわせてくれていた。

『──あれを〈斬る〉のが、か』

 龍馬がそう低く呟いて、わしはこくりと頷いた。

 

『…わしの中で誰かが叫ぶんじゃ……ヒトを斬れ、と。

 〈人斬り〉だなんて、恐ろしい響きちや。でもわしも片足突っ込んじょる。…わしがおなごで良かったと思える唯一ぜよ──腕の力が男より弱いき、一線を踏み越えんかったんは……。』

 ため息をつくわしの頭を、龍馬はぽんぽんと撫でる。わしは胸がむず痒くて、そっぽを向いた。

『大丈夫やき。犬蔵さんは優しい女の子じゃ。鬼を斬ってもヒトは斬らん。斬りたくないと思うなら、斬らなければえい話。そうじゃろう?』

 煮え切らない返事で返すと、龍馬は続ける。

 

『それに、隣にはわしがおる。犬蔵さんが間違いを犯しそうになったら、わしが死んでも止めちゃるき』……

 ──わしは龍馬のそんな笑顔を失いたくないきに、死なんといてと言おうとしたのに、俯いて涙を零すことしかできんかった……っ、

 

 

  七杯目   闇に光る幻想の華

 

 

 りょうま、…りょーま。おまんがいないと、わしは──。グス、…すまんのお…

 ……どうも、酒を呑むと湿気ってしもうていかんのう…泣き上戸やよう言われるき。

 

 …ほんで、結界な。さっき言ったとおり、龍馬は華の魔力活性化呪文を覚えちゅう。巻物に書かれていた通りにまずひとくびきを土にねじ込むことから始めるが、わしはそれにも手間取って結局龍馬に助けてもろうた。

 差した華の周りを蔦でぐるりと囲い、更に札を輪にくぐらせる。それから龍馬が呪文を唱えて数秒。

 わしがひとつ瞬きをする間に、華はぽっと光り出した。

『おお…』

 とわしは声を漏らした。

『…綺麗じゃのお』

 龍馬も感嘆したようにそう呟いた。華の光は辺りを包み込むように優しく照らしゆうき、あの華が魔術の儀式に使われるのも納得いく。

 その神秘的な明かりに、わしは生き返る心地がした。

 ──ああそれと、途中でよみとつたの数が合わんくなったのには参ったのう。きちんと4つずつ準備したのじゃが、どこかに落としたことに気づいた時は焦った。

 多分呪文の準備している時に置き忘れたと踏んで、龍馬と一緒に来た道を戻る羽目になった。…まあ、わしのポカじゃがな。

 

 4つ全てのひとくびきを村の四隅で光らせたのを確認して、わしらは魔法陣班とやっと合流した。

 魔法陣も魔法陣で、ツムギ女史が神妙な面持ちで指先から白い線を描いちょる姿は神々しくも思えた。

『をお…?なにしゆうがか』

 隣のウー・ダンダンにこそっと耳打ちで訊くと、どうやら指先に魔力を集中させて魔法陣を描いているらしかった。わしらが静かに見守っている間に、ツムギ女史は最後の文字を書き終わった。

『…できた。』

 そして彼女はほうと息をついて、得意げに微笑んだ。

 

『後は呪文を唱えるだけ、だ』

 紫陽花は巻物をランタンの明かりにかざして、龍馬に手渡した。龍馬はひとつ頷いて魔法陣の前に立つ。

『準備はえいか、みんな』

 そう龍馬は仲間を見回す。そして、儀式は始まった。

 

『正体看破の巻物よ、秘められし魔力を解放せよ──!』

 龍馬は巻物の呪文を唱え始める。

 魔法陣は白い光の眩しさを増し、見物に来た村人たち総勢の青白い顔を照らしていた。

 魔法陣の光がいよいよ炎のように夜を燃やすというところだった。その魔法を完全に発動するために、龍馬は最後に、巻物をびりりと破り裂いた──!

 

 

  八杯目   激闘

 

 

 その瞬間、爆発が起きたかのようにまばゆい光が辺りを飲み込み、風が吹き荒れた。それが収まると──村人たちの人ごみの中に、鬼が混じりおった。

『っ、わあぁっ!?』

 村人たちは蜘蛛の子を散らすように鬼から距離をとって逃げ去り、離れたところで様子を窺いゆう。わしらは刀を抜き、墓で相まみえたものよりも大柄の鬼たちに構えた!

 

『─〈ちぃっ、畜猿どもめが〉』

 その焼けたように枯れた声の主は、鬼どもが守るように囲んだ中の一際大柄な鬼だった。顔の半分が仮面のような角で覆われ、耳まで裂けた恐ろしげな口元が覗く。

『喋った!?』

 と戸惑うわしらを鼻で嗤い、

『〈能のないやつらだ。まさか貴様ら如きに我ら魔族の妖を破られるとは──気に入らん!〉』

 

 その鬼──鬼頭とでも呼べばええか──が長い爪の腕を横に振ると、鬼は統率の取れた動きをして散らばった。また鬼頭が何か指示を出すと、鬼たちは無防備なツムギに襲いかかる。が、

『──おっと、行かせないアルよ』

 とウー氏が割って入った。鬼の一撃を盾で受け止めたウー氏は、肉薄した距離のまま屈強な脚で鬼の腹に渾身の蹴りを浴びせた──その衝撃に体制を崩した鬼の首を、すかさずツムギのチャクラムが刈る。その連携に、わしはひゅう、と声を漏らした。

『そらよっと!』

 続く紫陽花は斧の角で殴るように斬り、黒い血の華を咲かせちゅう。

 

 墓で相対した鬼よりも堅いが、対処を心得たわしらは優勢に思えた。

『犬蔵さん!』

 龍馬の焦ったような声に振り向くと、鬼は龍馬の投げた手裏剣をかいくぐり、目前に迫ってきゆうところじゃった。

『ちっ、』

 わしは咄嗟に刀を振るが、墓で斬り捨てた鬼の手応えが忘れられず辛うじて鬼の爪を受けるしかできんかった。

『どうして反撃しないアルか犬蔵!』

 そうダンダンの叱責が飛ぶも、わしは怖じ気づくままじゃった。

『無理じゃ……、わしには、できん…っ!』

『犬蔵さん……』

 

 仲間が鬼をあらかた片付けてから、総員で要の鬼頭に取りかかる。わしらは、その時初めて奴がげに強いことに気がついた。

 ダンダンの盾は押し切られ、紫陽花の斧は空を切り、ツムギのチャクラムはパンケーキ──西方の武術らしい。仰け反ってかわす技の名前だそうだ──された。

 流石鬼の頭と言えるそんな身のこなしに、わしらは段々と消耗していった。

 と、その時。

『─ウオオォォ!!』

 覇気の纏った声と同時に、下っ端の鬼が吹っ飛んだ。

『〈なにッ!?〉』

 吹き飛んだ鬼は土煙をあげ、鬼頭を巻き込み衝突した。

 その強烈な一撃の主は、猪のように鼻息荒く斧を握った村男──セツだった。

『セツ……お前…。』

『喰われた仲間の仇!薪割りで鍛えたこの一撃……どうだっ!!』

 セツは鋭い視線で土煙の先を睨んでいる。その場にいる全員が見守る緊張の中、晴れてゆく土埃から覗く影は──

『……そんな、』

 ──まだ芯を揺るがず立っていた。

 

 

  九杯目   明未空

 

 

『〈ククク……ぬるい、ぬるいわ!〉』

 鬼頭は空に消えゆく仲間の灰を、じゃりりと踏みつけた。

『まだ、倒れない…だと…!』

 鬼頭は絶望めいてそう呟いたセツに顔を向ける。その途端、セツはがくりと膝を折った。

『セツ!』

『〈全く。他の有象無象のように大人しく黙っていればいいものを……そこで転がっているがよい〉』

『まさか、“人喰い鬼の魅了”っ!?』

 ツムギの言葉に、鬼頭は不敵に口端を歪める。

『〈御名答。この村には頭の空っぽな愚民が多かった故、楽だったね。

 例えば、そこの──〉』

 鬼の流し目を受けた、

『〈──仔狗なんて丁度良い。〉』

 

 わしは鬼頭の目に囚われた。猫のように細い瞳孔は夜闇のように妖しげに煌めき、二対の硝子玉のようなそれに、わしはぴくりとも動けんかった。

 視界の端で龍馬の手裏剣が光った。確かあれが最後の一つだったはず─と、靄のかかった頭のどこかで思う。

 しかしそれは呆気なく爪に弾かれた。

『〈フン…未熟な女を盾にし、自分は安全な場所から鉄片を投げつけるだけの巫覡、か。神の御使いが大層な御身分だことで……

 おお、可哀想な仔狗め、我が傘下に下ればあんな猿よりも有用に使ってやろうではないか。どうだ?〉』

 ──わしは、自分の足がふらふらと鬼頭に向かって行くのを止められんかった──

『犬蔵っ、気をしっかり持て!』

『……犬蔵、さん……』

 鬼頭が手のひらを差し出す。

『……お、ま……ん』

『〈何ぞ?仔狗〉』

 

『──おまん、リョーマを──笑うたか』

 

 がら空きの胴に斬り抜いて、一閃。振り切った頭上から切り返して左肩からもう一太刀。左脇に斬り抜けて、背中から刀を貫く。

『誰にも、リョーマを、笑わせんぞ……』

 串刺しにしたままの刀を、左腕を支点にして肋骨に切りこむ。ごりごり、ぶちぶち、その感触が腕の骨から脳天に響く。

『死に──さらせええええぇぇ!!!』

 更に力を込めると、刀が重い付加から一気に解放された。

 

 黒い血潮が雨のように降り注ぐ音を聞きながら、わしは、山の際から明けゆく紫の空を眺めていた。

 

 

  十杯目   新しい今日

 

 

『犬蔵さんっ!』

 真っ先に走り寄ってくる龍馬の声に、わしは気を取り戻した。

『……犬蔵さん…?どういて──、』

『?リョーマ、どういた』

 龍馬はどっか引っかかる顔で首を振った。

『──いや、なんちゃあない。それよりも凄かったぜよ、最後のあの連撃!』

『そうだ、見直したぞ犬蔵!よくやった!よーしよしよーしよし!』

 なんて紫陽花が頭を乱暴に撫でゆうもんじゃから、わしはあっというまに仲間に囲まれ、もみくちゃになってしもうた。

 

『いやはや、冒険者様方にはなんとお礼を言ったらよいのか…。』

 その後鬼の魅了も解け、正気を取り戻しゆう村人たちと村長から、口々に感謝の意を伝えられた。

『あなた方は村の恩人です。今日は私の家に招き、村総出でもてなしましょう──しかし、いやお恥ずかしい。今の我々には報酬と呼べるものがそれぐらいしかないのです。村名産の芋料理ぐらいしか……。』

『さっ、酒は?酒も無いのか!?』

 紫陽花は村長に詰め寄るが、村長は変わらず困ったような顔で脂汗を流しちゅう。

『申し訳ありませんが…。』

『そんな……』

 がっくりと肩を落とした紫陽花だったが、そんな彼女に歩み寄る影があった。

 

『姉ちゃん、うちなら芋焼酎があるが』

『本当かっ!』

 紫陽花が、その名の花の如く萎れた顔を上げるとそこには、セツが太陽のような笑顔を浮かべていた。

『おうともよ!俺の父ちゃんが酒蔵やってたんだ。姉ちゃんになら秘蔵の焼酎、引っ張り出してやるよ』

『セツ…お前いいやつだな!!!!』

 紫陽花はガバッとセツの肩を抱き、上機嫌で歩き出す。

『…じゃ、わしらも行こか。犬蔵さん』

『そうじゃな。紫陽花はんがまた飲み過ぎんように、今日こそ見張っときゃならんしの』

 

 朝日に照らされた紫陽花とセツの背中を追って、わしらは新しい今日へと歩き出した──。

 

 

 

──ちゅうのが、その村での冒険の顛末じゃ。

 さあ、話も終わったし店じまいじゃ。帰った帰った。

…なにしゆうがか?…ど、どこ触っ…ちゅう!やめ、離せ…!

畜生、最初からこれが目的…で、酒を!

ひっ…!わしの、刀、返せ、

 

やめ、──い、嫌じゃ、嫌じゃ!!ッ助け、助けとおせ誰か…助け、──りょおま──っ!!!!

 

「…そこで何してるの」

!りょおま!助けとおせ、こいつが無理やり、

「また調子に乗って奢られるまま呷ったんでしょう……だから言ったのに!」

っすまんかった、わしが悪かった!

りょおま、冒険を思い出しながら気づいた、おまんがいないとわしはてんで駄目で!こない事になっちゅうんもわしの性根のせいじゃ……すまんかった、龍馬……

「……君、犬蔵さんの話聞いてたんでしょ?そういう訳だから君の出る幕は無いよ」

…送ろうとしてただけ、じゃと!この期に及んでまだそないな事ほざいちゅうがか貴様は!

「…ふうん、そうなんだね」

龍馬?こいつの言うこと信じ、

「そうだとしても、」

………龍馬ぁ…殺すなよ…?

 

「──狼なら、間に合っちゅうけえのぉ」

 

………はええ…

「……全く。やれやれ、犬蔵さん無事かえ?」

…まあ、ギリギリのう

「遅くなってすまんの、じゃがもうこないな事無いように。あんな台詞言わせて、照れくさいぜよ」

おーおー、すまんのー。…ドス声も様になっちゅうくせに…

「何か言ったがかぁ?」

なあんにも…あー、飲みすぎた…

「おぶる?」

や、肩貸してくれゆうだけでえい…

「はぁ……」

 

……のう、龍馬

「なんじゃ?」

あの時……人喰い鬼の村で、最後の鬼をわしが斬り殺した時……黒い血潮浴びちゅう時、…何て言うつもりだったがか?

「………」

りょーま?

「……さあ。そない前のこと、覚えちょらんぜよ」

そう、じゃよな!すまんの、変なこと聞いて

「えいえい。…そろそろ日が明けるぜよ」

おー、ほんまじゃ。随分と語りゆうなあ…

あの村を救った朝も、確かこない空をしちょった。わしは暁の空が一番好みじゃけえ。

「わしは夕暮れかのう。似たようで違う空じゃの」

そうじゃにゃあ……

 

「……本当は、忘れてなぞ……」

ん、何か言うたがか

「何も?」

さいですか……。

 

 

──(……犬蔵さん、どういて──、

 

──笑っちゅうがか)

 

 

 

回想:夜の章~月夜の冒険~

 

   ーーーー完ーーーー

 

Special Thanks

 

LARP普及団体CLOSS様

昭和の森

冒険の素晴らしい仲間たち

魅力的なNPCたち

etc...